人気ブログランキング | 話題のタグを見る

遠山史学と歴史学の現在

今日は、あいにくの天気でした。明治大学駿河台校舎で行なわれた「遠山史学と歴史学の現在」に参加してきました。シンポジウムは13:00~17:30で歴史科学協議会・歴史教育者協議会・歴史学研究会の共催。4名の報告の後、討論という構成でした。報告者と論題は以下のようです。
板垣雄三  遠山さんと〈東アジア〉歴史像
大門正克  昭和史論争後の遠山茂樹―論争の課題をどのように受け継ごうとしたのか
大日方純夫 遠山史学における「自由民権」の位置
丸浜昭   遠山氏の歴史教育論の何にこだわってきたか
--------------------------------------------------------------
遠山史学と歴史学の現在_a0239911_1703318.jpg
それぞれ勉強になりました。板垣先生は、『歴史評論』1月号に書かれたこととも関わらせて、中東の激動に引き寄せながらいろいろ刺激的な問題提起をしていました。大門先生の報告からは遠山氏の研究姿勢を知ることができました。大日方先生は、遠山自由民権運動と論争を受け止めつつ、独自の自由民権運動観を話されていたように感じた。丸浜先生は、高校での授業実践の中でどのように遠山史学を活かしてきたかを話されていた。
報告の本題よりも、そのあいま合間にもらすつぶやきというか、もれる思いで話が面白かった。
討論も、個別の質問と大きな質問と活発に行なわれた。
井上清氏はジェンダーについて述べたものがあるが、遠山茂樹氏にはそれはない。しかし、書いていないからといってジェンダーについて何も考えを持っていなかったと言ってしまってよいのか、どうだろうか? というような質問があり、板垣先生が、遠山さんはあちこちに呼ばれ忙しく家に寄り付かないと奥様によく怒られていたという点などは微笑ましい。
開会にあたって、司会から先に「謝罪」のあった点ではあるが、「天皇制」について述べる報告がなく、今後どのように継承していくか。このような質問もあった。

シンポジウムでは遠山茂樹主要著作リストも配布されたが、そのリストを眺めながら、そういえば図書館で借りてパッと返すばかりで、じっくり読んだことがないなと思い神保町の古書店で『明治維新と現代』『日本近代史Ⅰ』を買い、前者を電車の中で読んで帰宅した。
--------------------------------------------------------------

お買い物
・『聖フランシスコ・デ・ザビエル書翰抄』岩波文庫、上下巻
・シュトラウス『イエスの生涯・緒論』世界書院
・土井正興『歴史をなぜまなぶか』青木書店
・遠山茂樹『明治維新と現代』岩波新書
・遠山茂樹『日本近代史Ⅰ』岩波全書
# by kawa0201jp | 2012-01-21 23:23 | 参加記

良知力『向こう岸からの世界史』

本書は、ウィーン(部分的にはベルリン)を舞台にした1948年革命の実像を新たな角度から見直したものである。深刻な問題点を含んでいながら、ウィーン革命のリアリティが生々と叙述されている点でとても面白く読める魅力的な世界史の本である。著者は19世紀ドイツのヘーゲル主義的西欧中心思想、とくにアジア=スラヴの人々の問題に対するヘーゲル左派やエンゲルスの近代主義史観を批判しつつ、ウィーンにおける48年革命のなかにひそむ民族問題の意味をえぐりだしている。革命圧殺者の先兵となったクロアティア兵のなかに著者はベトナムに送られたアメリカの黒人兵の姿を重ねあわせると同時に、ブルジョアジーに裏切られつつブルジョア革命のために死んでいった「プロレタリアート」のなかにも、ボヘミア出身の多くのスラヴ人を見いだしている。民族的対立と民族問題の根深さと重要性をあらためて考えさせられる1冊である。良知力『向こう岸からの世界史』_a0239911_957656.jpg


1848年のウィーンの革命史の実態を詳細に描くなかで、著者は「歴史なき民」こそが歴史の担い手であり、革命の主体であったという事実を掘り起こす。少数民族や賎民が生き生きと描かれた本書は、著者の自己の半生をかけて達成した成果を克服しようとする試みであり、思想史から社会史への転換点を示す記念碑的作品である。
# by kawa0201jp | 2012-01-16 09:54 | 読書メモ

土井正興『新版スパルタクスの蜂起』

 本書は、共和制末期ローマの大奴隷反乱=スパルタクス蜂起の内容や性格を解明しつつ、この奴隷反乱がローマ史上に占めた歴史的役割を論じたものであり、前近代社会の階級闘争史では最も魅力ある著書の一つである。奴隷制社会としてのローマが抱えている矛盾が生々と簡明な文章で叙述され反乱の社会的背景が浮き彫りにされると同時に、反乱のプロセスと結果の分析によって、スパルタクス蜂起がめざした奴隷解放の新しい方法、奴隷がかかえていた内部矛盾と敗北の原因、蜂起が残した世界史的・思想史的意義などがわかりやすく論じられている。歴史における民衆ないし被抑圧大衆の役割を明らかにしようとする著者の一貫した意図が、抽象的な理論としてではなく歴史の具体的な分析と叙述のなかに執拗に貫かれており、さわやかな感動をうんでいる。西洋古代史に関心を持つ人に限らず、広く歴史学を研究するものに一読をすすめたい。土井正興『新版スパルタクスの蜂起』_a0239911_2391238.jpg
# by kawa0201jp | 2012-01-14 23:05 | 読書メモ

平泉澄「金澤文庫と足利學校」について

平泉澄「金澤文庫と足利學校」は、大正15年に至文堂から刊行された『中世における精神生活』のひとつの章として収められている。現在は、平成18年に錦正社から「漢文・古文に返点・濁点・句読点をつけ努めて読みやすくし」たものが刊行されている。
錦正社のサイトには以下のようにある。

 平泉澄博士の第一著作で、近代的な中世史研究の原点とも評価される名著を八十年ぶりに組み直し、新たに解説・索引を加え、漢文・古文に返点・濁点・句読点をつけ努めて読みやすくし復刊。
 博士は、従来、闇黒の世界、錯雑の世界と称され、ほとんど顧られることがなかった「中世に於ける精神生活」の種々相を解明して一書を成すことが年来の願いであった。
 上代と近世との中間に在って承前起後の位置を占める中世を理解する事は、国史全体を貫く理解となること、また中世の精神生活を明らかにする事が、混迷せる現代の思想界に一つの光明・指針を投げかけることになると確信したからである、という(自序)。
 本書は、出版後、学界・思想界にも当時の世相にも極めて大きなセンセーションを巻き起こした。しかも今なお、学位論文『中世に於ける社寺と社会との関係』(大正十五年刊)と共に高く評価されている。本格的に歴史と社会の見直しを迫られている今こそ、この名著が読み直される好機と考え、ここに復刊する。とりわけ若い史学研究者や歴史愛好家たちに、このユニークな大著を丹念に味読して頂きたい。 
 

ここでは、至文堂によるが、「金澤文庫と足利學校」の問題意識を記した文章を引いておく。旧字体は、新字体になおしてある。金沢文庫と足利学校が、教育・研究機関としてはさほど機能していなかったとする。今後、足利学校の歴史を批判的に考えていくにあたって重要な指摘もみることができる。
---------------------------------------------------------------------
 中世に於いて宗教がすべての文化価値の最高究竟のものと考へられ、上代に於いて貴族文化の栄えたときには「木の端のやうに」思はれた僧侶が、最も尊きものとして尊敬せられ、其他のものは此の宗教に従属し、その関係に於いて僅かにその価値を保有すると考えられるるに至ったのは、無論従来支配階級であつた貴族が、政治上にも経済上にも俄かにその勢力を失い、それと共に貴族文化が究速度に衰退した結果ではあるが、しかし之に代つて宗教文化が俄かに台頭し、あれ程迄に深く宗教意識を全国民の脳裏に呼び起し得た事は、当時に於ける教育が僧侶の手によって握られてゐた特殊の事情に、その最も深き原因を帰せなければならない。
 しかるに中世の教育を説くものは、従来殆んど一定して、この時代を暗黒の時代と見、而してその暗黒の中に於ける稀なる光明として、金沢文庫と足利学校との二つを非常に重大視して居る。しかしながら此の二者は、果してそれほどの価値があつたかどうか、即ち従来説かるるが如き重大なる意義を中世文化史上に持つものであるかどうか、私は疑いなきを得ない。そこで本題に入るに先だち先づ金沢文庫と足利学校との歴史を調べ、それが中世の文運に如何なる貢献をなしたかを考へ、その歴史的意義を論定したいと思ふ。
# by kawa0201jp | 2012-01-10 11:11 | 足利学校

土井正興『生きること学ぶこと』

土井正興『生きること学ぶこと』三省堂選書72、1980年
目次
Ⅰ軍国主義のくびきのもとで
Ⅱ戦後の嵐のなかで
Ⅲ「私の大学」歴研への「入学」
Ⅳスパルタクスとのであい
Ⅴ人間の尊厳の回復をめざして
Ⅵたたかい、たおれた人々とともに
あとがき

学生諸君からよく「なぜ先生は歴史なんかやっているのですか」ときかれることがある。こうした学生諸君の質問に、とても三〇分や一時間で答えることはできない。それは、現在、私がいまもまなんでいることと、いままで私がいきつづけてきたこととは、深いかかわりがあり、懸命に生きるなかでこそ、どのように学ぶべきかをくりかえし問いなおしてきたからである。これは学生諸君の顔を思いうかべながら、こうした素朴な問いにたいしてかかれた現在の段階での未熟なひとつの答案にすぎない。(裏表紙より)

1924‐1993年
1949年東京大学文学部西洋史学科卒業
大学非常勤講師や高校教諭を経て、専修大学教授
http://webcatplus.nii.ac.jp/#/134c01f0f7a
【読書メモ】
友人から『専修史学』第50号(2011年3月)を、2011年冬にもらった。「世界史教育」や「グローバルヒストリー」について話していて、それならと持ってきてくれたのがこれだった。周藤新太郎「世界史教育の視点から「世界史の現在」を考える」を読んだことによって、土井正興を知った。
『生きること学ぶこと』は目次を一瞥すればわかるとおり自叙伝である。生まれた家は、その直後、土井の父から、永田鉄山に譲られ、土井の一家は姫路に引越しをしたことから始まる。
歴史学研究会の歴史を知る上でも、世界史教育の進展について知る上でも多くの貴重な記述がある。
# by kawa0201jp | 2012-01-09 10:59 | 読書メモ


世界史研究会運営ブログ


by kawa0201jp

カテゴリ

全体
研究会案内
参加記
文献紹介
読書メモ
足利学校
足利探訪
未分類

以前の記事

2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月

フォロー中のブログ

URGT-B(ウラゲツブログ)
歴史の諸問題

メモ帳

最新のトラックバック

ライフログ


戦争と近代―ポスト・ナポレオン200年の世界 [PR]


国家の興亡と歴史家―復刻:解説 [PR]


近代の超克―永久革命 [PR]

検索

タグ

その他のジャンル

ブログパーツ

最新の記事

日本近世の自立と連帯
at 2012-03-04 09:47
歴史地理教育 2012.2 ..
at 2012-02-20 23:09
明石弁天厳島神社
at 2012-01-29 21:21
山川長林寺
at 2012-01-24 17:21
歴史科学協議会サイトより転載
at 2012-01-22 22:49

外部リンク

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧